雨の滴と恋の雫とエトセトラ

 またアクションの激しいシーンで、拓登は感情移入したのか、時々息詰まる声が聞こえてきた。

「オー! ノー」

 ショッキングな場面で言いたくなる気持ちは充分理解できるだけに、驚きの声が英語的になってるのがおかしかった。

 大人っぽい風格だと思っていたが、映画に夢中になって声を発するところはまだまだ無邪気な少年らしくて、思わずかわいいと思ってしまった。

 そんな意外な一面を知れたのは儲けものだったかもしれない。

 映画を観ているときだけは、瑛太はさすがに絡んでこない。

 上映中は気が休まるかと思っていたが、ほっとしているのも束の間、ロマンティックなキスシーンが出てきた時は、落ち着かないののなんの。

 一人で観ていたら、なんとも思わないのに、隣に拓登がいるだけですごく恥ずかしく感じてしまう。

 平常心を保とうと変に動けなくなって、余計にギクシャクしてしまった。

 激しいキスシーンに感化されて息づかいが荒くなってないだろうかと、息まで止めてしまうのはやりすぎだった。

 その後、苦しくなって酸素を取り入れるのに余計にハアハアしてしまった。

 私もそれだけ拓登を意識して、どこかでロマンティックな恋を夢見ている。

 これが二人だけだったらどんなによかったか。

 もっとこのシーンにドキドキしていただろうに、瑛太がその向こうに居ると思うだけで興ざめだった。

 よく考えたら、男の人と一緒にどこかへ出かけるのなんて初めてのことだった。

 瑛太のせいで、折角の初めてが台無し。

 今頃になって、沸々と怒りがこみ上げてきた。

 その映画のシーンも悪役を倒すクライマックスに来ていて、その悪役の嫌味ったらしい笑いが瑛太の笑みと重なってしまった。