雨の滴と恋の雫とエトセトラ

「はいはい、もういい。映画に集中しよう。瑛太、頼むから、真由を放っておいてやってくれ」

「拓登が…… だから…… 、…… だろ……」

 極力落とした声で、開演前のざわめいた人の声の雑音にかき消されて瑛太が何を言ったのかよく聞こえなかった。

 二人は何かを言っていたが、私は首を突っ込むのをやめて放っておいた。

 そうしているうちに拓登の声がはっきりと聞こえた。

「瑛太、僕の負けだ。もう充分理解した」

 拓登のその一言は瑛太を黙らせた。

 でも、拓登が負けたってどういうことだろう。

 瑛太がしつこく近づいたことで降参したということなのだろうか。

 瑛太は勝ったと認められたのに、どこか気に入らなさそうに腕を組んで後にふんどりかえって、スクリーンを見つめていた。

 それからは大人しくなり、一言も喋ってこなかった。

 映画も上映が始まれば、喋る機会はないけども、それにしても瑛太の態度は拓登の一言で変わったとしか思えなかった。

 映画は地元アメリカでも話題になったヒット作品だったが、アクションも多くあまり私の好みではなかった。

 拓登が観たかったので、拓登が興味を持つ映画はどんなものかとそれに私が興味を持ってすんなりと決めただけだった。

 でも、ミステリーも含んだそのストーリーの先が気になって、そんなに悪くはない。

 しかし、激しく目まぐるしくシーンが変わる中で、悠長に字幕スーパーを読んでたらついていけないものがあった。

 字幕スーパー無しで観られたらどんなにいいだろうと思いながら見ていると、隣で拓登が何かに反応して受けて笑っていた。

 笑うツボがよく分からなかったが、字幕スーパーを読んだ時、なんか面白い事を言ってる感覚がつかめた。

 映画館の中でも笑いの渦がよどむ。