雨の滴と恋の雫とエトセトラ

 瑛太は自分の顔を私の耳元に近づけ「真由、好きだぜ」と甘く囁いた。

 軽く瑛太の息が耳にかかって、ゾクゾクとして不覚にも感じてしまう。

 自分でも耳付近が弱かったとは知らなかった。

「いい加減にしてよ、瑛太! 早く離してよ」

「どうだ、俺でもドキドキするだろ」

 瑛太が離れた時、私の顔は真っ赤になっていたと思う。

 かぁっとした熱いものが体から上昇して熱を帯びていた。

 でもこれは、ドキドキしたからではなくて、腹が立って怒ってるからである。

「瑛太! この間のキスといい、今回のこれといい、私許せない。ドキドキどころか、ムカムカよ」

 私は思わずグーの手がてでしまい、瑛太の胸めがけて振上げた。

 瑛太は笑いながら余裕でその私の手をいとも簡単に掴んでしまった。

「暴力はよくないぜ」

「これ以上、私に付き纏うのはやめてよ。瑛太のやってることは逆効果なのがわかんないの? こんなの馬鹿にされてるとしか思えない」

 瑛太の顔から笑みが消えた。

 それは悲しんでいるようにも見えたし、上手く行かないことにがっかりしているようにも見えた。

 瑛太の手の力が緩んだので、私は振り払って、そして踵を返して一人で歩いていった。

 ここは無視をするのが一番。

 相手にすればそれは瑛太の思う壺となり、どんどんと瑛太は私の想像を超えてとんでもない事をしでかす。

 このままではファーストキスまで奪われてしまうのではと思うと危機感を感じてしまった。

 それだけは絶対に嫌!

 怒りを体に溜め込んでいたので、地面に足跡がつくくらいにかなり力が入って闊歩していた。

「真由!」

 後で瑛太が呼んでるがもちろん無視。