雨の滴と恋の雫とエトセトラ


「何を今更、あんなこと覚えてるのは本人しかいないじゃないか」

「でも、他にも覚えている人がいる。それはあの時一緒にいた子供たち。瑛太はキスをした本人じゃなくて、取り巻きの一人だったから覚えていただけ」

 瑛太はじっと私を見ていた。

 その目はどこまで私が思い出しているのか見極めようとしているようだった。

「瑛太、どうして嘘をついたの?」

「なんで俺が嘘ついてるって思うんだよ」

「瑛太は青い傘を突き出して走ってきたって認めたよね」

 瑛太はその時、はっとした。

 自分でもどこに問題点があったか気がついたみたいだった。

「もしかして、傘のことか?」

「そうよ。あの時キスをした男の子は青い傘なんて持ってなかった」

「それなら、ただの勘違いだったってことじゃないか。俺だって、傘の色がごっちゃになってたかもしれない」

 それでも瑛太は自分が嘘をついているとはまだ認めなかった。

 どこかで誤魔化せるかもしれないと粘っている。

「それはありえないのよ。あの時の傘の色は間違える方が不自然なの。それじゃ私が持っていた傘の色覚えてる?」

「えっ、それはピンクか赤だろ」

「ほら、やっぱり適当に言ってる。あの時私が持っていた傘、そして私にキスをした男の子が持っていた傘、そしてついでに瑛太が持っていた傘もみんな同じ傘だった」

「同じ傘?」

「私は誰が私の頬にキスをしたかは覚えてない。でもあの時の傘のことはしっかりと覚えてるの。あれは学校が支給した置き傘だったから。突然雨が降ったときの対策のために置き傘を学校に置いていた。あの時、帰る時になって雨が降ったから、皆、置き傘を使ったの。だから皆、黄色い傘を持っていた」

「置き傘?」

「瑛太も結局ははっきりと覚えてなかったってことじゃないの? だから私が訊いても答えられないからあんな言い方をした。そう考えたら辻褄が合う」

 瑛太はふっと息をもらすように鼻で軽く笑った。

「へぇ、さすが真由。俺を引っ掛けるなんてやってくれるもんだ」

「それじゃ、嘘ついたって認めるのね。でもなぜそんなことをするの?」

 瑛太はまだ何かを探るように私の目を見て、様子を見ている。

「確かに俺はあの時、側に居て、真由がキスされるのを見ていた。囃し立てていた一人だった。でも本当にキスするなんて思わなかったんだ。子供ながら大胆な行動に出たことでびっくりしたもんだった。あの後、真由が先生や親に告げ口して、俺は怒られるんじゃないかって恐れていたくらいだった。でもそれもなかったから、真由も結局はキスしたそいつの事が好きだったんだろうかってずっと疑問だった。そうやって真由のこと考えてたらさ、なんか気になってさ、それでずっと胸に潜めてたって訳。そんなときに、拓登と一緒にいるところを見ただろ。そしたら急にいてもたってもいられなくなったってわけ。そこで成りすましてみようと思ったのさ」