雨の滴と恋の雫とエトセトラ

「あの時、瑛太は数人の男の子達と何か揉めてたよね」

「まあな」

「その時は私の頬にキスしろって誰かが囃し立てていたんでしょ」

「ああ」

「それで、引けに引けなくなって、瑛太は私に走り寄ってきた。あの時は雨が降っていたから、傘ですっぽりと瑛太の顔が隠れて、私からは見えなかった」

「勢いついて、傘を突き出していたかもしれない」

「確か、青い傘だっけ。そしてその傘を放り投げてその勢いで私の頬にキスをしたよね。ここまでは私は覚えているんだ。これでその部分は合ってるでしょ」

「ああ、合ってるよ」

 私はそこで立ち止まった。

 やはり自分が気がついたことは正しかった。

 瑛太は本当は詳細を私以上に覚えてない。

 だから、あの時私が聞いても頑なに論点をずらして教えてくれなかった。

 教えられなかったのは覚えてないのではなく、キスをした本人ではなかったからだった。

 だって、あの時の傘は青色じゃない。

 黄色だったんだから。

 喫茶店でレモンをつついたとき、黄色が目にはいって傘を連想し、そしてふと気がついた。

 瑛太が本当に私にキスをしたのか、まずはそれを確かめるべきだって。

 聞いても教えてくれなかったことがどうしても引っかかってしまって、私にアプローチを掛けてきたのなら絶対それは私に思い出して欲しいはず。

 それを避けるなんておかしすぎた。

 でも瑛太が私のキス事件の事を知っているのは、あの時の取り巻きの中の一人だったに違いない。

 私にキスをした男の子は他にいる。

 それを利用して、自分はなりすまし、いかにも昔から特別な関係で運命だって言うようにもってきた。

 瑛太にとっては、唯一私の過去の事を知る話だったけに、利用するにはもってこいだった。

「どうした? なんで立ち止まってんだよ」

「瑛太、どうして私に嫌がらせするの? 私、瑛太の気に障る事をしたの?」

「一体、どうしたんだよ、急に」

「私、わかっちゃった。瑛太はあの時私の頬にキスなんてしてないこと」

 瑛太の顔色が変わった。