雨の滴と恋の雫とエトセトラ


 明彦とは駅で別れたが、その後は同じ町に住んでるため私達三人の帰り道は同じだった。

 帰宅ラッシュまでとはいかないが、そこそこ電車は混んでいる。

 三人で何かを一緒に話す雰囲気でもなく、この複雑な三角関係はこの時普通の仲間のように穏やかだった。

 つり革を手に取り拓登を挟んで両端に私と瑛太がいる位置だったが、これは拓登が瑛太と私を近づけさせないようにしたためだろうか。

 瑛太はすました顔で視線を定めずにぼやっと前を見ている。

 時々私と拓登が話すとしっかりと聞き耳立ててるのがわかる。

 なんだかスパイされているようで、私もできるだけ小さな声で拓登の耳の側で話をしていた。

「拓登は昔のことって、どれくらいの時から覚えている? 小学一年のこととかやっぱりはっきりと覚えてるもの?」

「うん、そうだね。割りとインパクトが強かったことは覚えてるけど、人それぞれじゃないかな」

「だよね。だけど、写真とか見たら、なんとなく思い出せるかもしれないけど、余程のことがない限り、私は忘れてる。いらないことは捨ててしまうのかも」

「捨ててしまう? 記憶をかい?」

「自然と自分で必要じゃないことは抜けて忘れていって、覚えてなければいけないことはいつまでも留めておくんだと思う」

「でもさ、誰かにとったら真由に覚えていて欲しい事もあるだろうね。例えば、その小学生の時の頬のキスのこととか……」

 この時、瑛太が言った『覚えてない方が悪い』という言葉が蘇った。

「拓登も私が覚えてない事が悪いと思う?」

「悪いとかそういう意味じゃなくて」

「だけど、私もちょっとは思い出しそうだったんだけど、本人に聞いたら教えてくれないんだもん。覚えていて欲しいなら、あの時教えてくれたら、私だって思い出せたかもしれないのに」

 私は瑛太の方をみた。

 瑛太は聞き耳を立てていたのに、わざと聞いていないフリをしているのか、ぼーっと前を見ているだけだった。