「別にもういいよ。今更そんなこと詳しく話しても事実はかわらないんだから。あの時はガキだったから、ノリでそうなったってことだ」

「でも瑛太ははっきりとあの時のこと覚えているんでしょ。だったら、なぜ私の頬にキスをしてしまう行動に出たか、理由を教えてよ」

「それこそ、真由が覚えているべきなことじゃないのか。それを覚えてない真由が悪い」

 責任転換して誤魔化してきた。

 どうしても自分の口からは言いたくないらしい。

 でも、なぜ?

「だから、私が覚えてないから、聞いているんじゃない。どうして教えてくれないのよ。私は被害者なのよ!」

 瑛太が素直に教えてくれないから、少しきつく言ってしまった。

 私の強気な態度が原因なのか、隣で拓登が面食らっておろおろしている。

 明彦も私と瑛太の発言に吸い寄せられ、発言者が変わる度に忙しく交互に首を動かしていた。

「被害者? おいおい、俺は犯罪者扱いかよ。参ったぜ」

 瑛太はカップを手に取り、悠長にぬるくなったコーヒーをすすった。

 何かを考えるための時間稼ぎのようにも見える。

 また静かにカップを置き、そして小さく息を吐いた。

「あのな、真由。俺が気に入らないからって責めるなよ。たかが、ガキの戯れだろ。ガキの時はガキなりに思いつめる事があったってだけだ。それだけ真由を思っての行動がああ出ちまったってことなんだ。犯罪者扱いだけはやめた方がいいぜ」