「こんなに簡単に手に入るとはな」

綾香が出ていくと、拓也は呟いた。
ずっと手に入れたかった。

一目惚れだった。
面倒くさいと断るつもりだった指導係、綾香の顔を見て二つ返事で了承した。
部長には、下心を知られてしまっているだろう。

一度瀬良が、部署に訪ねて来たにこにこ出迎える綾香嫉妬した。
「彼氏?」と、からかわう同僚に、「違います」と、満更でもない様子の綾香に瀬良の存在が強く印象に残る。

俺のせいだという綾香に「責任をとる」と、タクシーに乗せ市役所へ連れて行った。
印鑑を持ち歩くように指導したのは、今日のためだったようにさえ錯覚する。
急かせるように、記入させ、押印させ。
たまたま、出しに来たカップルに、駆け落ちして来ただの嘘を付いて保証人になってもらった。