鹿瀬さんの話では、雅人と結婚できなかったのは、鹿瀬さんのせいだから、結婚しろと迫り、市役所に連れて行き、市役所にたまたま、婚姻届を出しに来た人に保証人欄を記入させ、提出したらしい。
運悪く私も鹿瀬さんも仕事柄印鑑を持ち歩いている。

「公文書偽造」

いくら酔っていたからと言って自分がそんな行動に出るはずがない。
その5文字が頭をかすめ、口に出す。

「綾香が、そう言うと思って」

そう言って差し出されたスマホの画面には、腕を組む私と鹿瀬さんが市役所らしい古い建物で、婚姻届らしい紙を持って写っている。

「よろしくな。奥さん」

「ちょっと、考えさせてください」

フラフラする足取りで部屋を出て、2階の自分の居住スペースへ。

営業部へ異動したら会社が借り上げてくれた駅近、会社近くのマンション。
何人かの同僚がこのマンションに住んでいる。

低層階は、狭いものの全額会社負担。
綾香はもちろん、低層階。
鹿瀬さんは、高層階に住んでいるらしいことは知っていたが、まさか最上階だとは思わなかった。
営業成績1位だと会社の扱いも良いのだろうか?

そんなどうでもいい事を考えて、現実逃避する。