「昨日はすみませんでした」
「瀬良が、酒を飲ませたくない訳が良くわかった」
「ですよね」

用意してもらった朝食を食べながら、沈黙に耐えかねて、再度謝罪を試みるも、更に空気が重くなる。

「鹿瀬さんて、雅人の事ご存知だったんですね」
「まさと?」
「瀬良くんです」

眉をひそめる鹿瀬さんに、あわてて言い直す。

「いや、呼び捨てなんだな。と、思って」
付き合っては、いなかったと昨日酔っ払いながら話していた。

「同期なんでわりと仲良しなんです」

同期の中でも雅人と遥、産休中の莉奈とその夫新とは、研修活動のグループが一緒だったから特に仲が良い。
このグループ毎に同期会の幹事が回ってきたりと、わりと引きずっているおかげで、このグループ内でカップルの誕生は結構多い。

「鹿瀬さん、」
「たくや」
「えっ」
「俺の名前」
鹿瀬さんは私の言葉を遮り、顔を上げる。
その顔が、妙に色っぽくて恋愛初心者の私は、ドギマギしてしまう。

「綾香、名前で、呼んでね。結婚したんだから」

私は、あまりに予定外の言葉をかけられると思考が停止する生き物らしい。

鹿瀬さんの両肘をついて両手を重ねそこに顎をのせ、頭を傾ける様子が、いたずらっ子の顔で、こんな顔もできるんだなぁ。って、どうでもいい事考えていながら、鹿瀬さんの言葉を反芻する。

「えー、意味がわかりません」