「子ども、欲しいなぁ・・・」
「子どもの前に彼氏だろ」

間髪入れずに突っ込むのは、同期で親友の一ノ瀬遥。
彼女の本社出張に合わせて、お休みもとり、ゆったりランチタイム。
11時過ぎに入店できたからか客は我々の他に1組。
静かでまったりした時間が流れる。

「瀬良くんとはどうなってるの?」
「別れた?」
「なぜ、疑問形?」

私の答えに遥は、笑いを噛みしめる。

「付き合ってるって言って良いのか微妙だから。」

先月、彼氏未満友人以上と言う微妙な関係の瀬良から別れを告げられた。

もう待てないと。

1年前に告白されて、その時、知らない人と付き合えないと断る私に、「自分の事を知ってほしい」と、期間限定スタートした交際。

先月のクリスマスにもう少し待ってくれと頼むも。

「ごめん」と言われてしまった。謝るのはむしろ私なのに、瀬良くんは何処までも優しい人だった。

「俺は一生仕事に勝てなそうだから」と言う切なそうな彼の言葉が、胸に突き刺って、1週間分たった今でも消化できていない。

「綾香と結婚して子どもができて、おかえりと言って出迎えてくれるのが、理想だった」

結婚を考えてくれていた事が嬉しかったけど、営業職の私では彼の理想の結婚には程遠い。

「結婚すると思ったんだけどね」
「まぁね」

相変わらず、この親友の洞察力は恐ろしい。

私もたぶん瀬良くんも誰にも言ってはいない。

彼は指輪を用意してくれていた。

素敵な人だった。
はじめて言葉を交わした頃から、その思いは変わらない。
彼と結婚できる人はきっと幸せになれると思う。

「瀬良くんいいやつだから、私が狙っても良い?」
「ダメ。って言いたいけどそんな権利ないけど、結婚報告はしばらく待って」

2人はお似合いだ。
きっと付き合うだろう。
1年も私に縛り付けて2人に申し訳なかった。
遥が瀬良くんを好きなのはなんとなく気づいていたのに、気づかない振りをしていた。
ズルい女だな。って、自己嫌悪に襲われる。