紗良は、自分のアパート~駒沢大学駅から徒歩10分の小じんまりしたアパート~に着くと、203の自分の部屋の鍵を開けた。ワンルームだが、トイレ、バスが別なのが気に入っている、2人掛けのダイニングテーブルの椅子に座ると、帰りがけにもらった芽衣の番号をスマホに登録する。いきなり電話するのも気が進まなかったので、ショートメールを送る。

「芽衣ちゃん、こんばんは。練2中3-D出身の田中紗良です。彼氏さんの岡島さんと同じ職場で。よかったら、返信してください」

5分後。RRRRRR・・・芽衣ちゃんから着信。

「もしもし、紗良ちゃん?久しぶり」

「だね。芽衣ちゃん、仕事終わってた?」

「うちは、ほぼ定時に上がれるの。化学薬品メーカーなんだけどね。紗良ちゃんは、SUNNY MEDICAL COMPANYでしょう?忙しい?」

「うん、まぁ。でも、経理部だから、月末月初以外は、だいたい7時くらいには上がれるよ」

「実くんは、毎日9時過ぎまで働いてるの。おかげで、デートは週末しかできない」

「あたしの彼も、そうだよ。工業デザイナーだけど、すごく忙しいみたい。男の人って大変だね」

「でね、実くん、ダブルデートって言ってたけど、紗良ちゃん可愛いから、プライベートで実くんと会ってほしくないの」

「可愛いぃ?あたしが?」

「会社で人気だって聞いたよ。でも、彼氏がいるから、ガード固いって」

そ、そんなことになってたの。

「じゃあ、仕事、今なら、7時には上がれるから平日の夜にでも会う?」

「うん。そうしよ。明日は?7時半に、新宿のPAPAPASTAはどう?」

そこなら、紗良も知っている。カジュアルで美味しい、パスタ屋さんだ。

「明日、OK。時間も場所もそれでいいよ」

「じゃあ。話せて楽しかった。明日ね。おやすみ」

「うん。じゃあね」

ふぅ・・・明日か。急だなぁ。芽衣ちゃんは、昔っからリーダー的なところがあった。中学3年生時代、今井くん、芽衣ちゃん、高松くん、雪乃ちゃん、坂西くん、結衣ちゃんのグループが一番目立っていた。何をするにも、彼らがみんなを先導していた。だから、あたしは「別世界の人種」だと思ってた。だから、今井くんの口にする愛の言葉もまともにうけとめられ無かったのだ。芽衣ちゃんと会って・・・もしかして、今井くんの消息がつかめるのだろうか。そうしたところで、今、あたしには雅人という大切な人がいる。過去の想い出はそのままでいいんだよ。でも、微妙に心が揺れるのは何故だろうか。