──そう、それは蓮くんからあの話を聞いた日は確か先月の7月の終わり頃。



多摩川の花火大会が開催された日のことだった。



「蓮くん、下駄の赤い鼻緒があたっているところ……、足が痛ーい!」



私は今にも泣きそうな顔をしながら蓮くんの顔を見上げた。



「あれっ、お前が浴衣を着て皆で花火を見に行くって、言い出したんじゃなかったっけ?」



その通り、私が言い出したことだった。



私は中間テストの数学の点数があまりにも酷くて悪すぎた。



学年で最下位の成績。



だから、期末テストでもし私が挽回をして良い点を取ったら皆で浴衣を着て多摩川の花火大会に行こうっていう約束をした。



勉強をした甲斐があってか、数学の期末テストは見事クラスで10番目の成績を取ることができた。



私とお姉ちゃんと蓮くん、浴衣でお出かけなんて凄く新鮮だった。



喜ぶのも束の間。



だけど、私は下駄を履いたのが人生で初めてだった。



普段からスニーカーに履き慣れている私は下駄を甘く見ていた。



ほんの歩き始めは私は「見て、ほらっネモフィラのお花畑が凄く綺麗だよ!」なんて笑顔を見せて話す余裕がまだあった。



歩けば歩くほど足の痛さに顔を歪める私。



下駄との相性は悪いかも、こんなにも足が痛くなるなんて想像もしていなかった。



下駄はもう懲り懲り、二度とゴメンだと思った。



蓮くんが呆れた顔をしながら「ああ、わかったよ。帰り、足が痛かったら。俺がおんぶしてやるから」と、私に微笑んだ。



「いいの?本当にいいの。やったあ!」



「ほら、また。……まったく、蓮はいつも彩歌に甘い。蓮、彩歌を甘やかしたらダメだよ!甘えぐせがついてしまうから」



優衣お姉ちゃんは時に蓮くんと私に厳しい顔をする。



蓮くんは気まずそうに下を俯いたまま黙ってしまった。