自分の部屋に戻り

もうすでに配られていた数学のワークを少しだけでも進めておこうと

始めて数分経った頃に家の固定電話が珍しく鳴った。


すぐにお母さんが電話に出て

そのワントーン上がった声が少しだけ聞こえてきた。


学校からだったらどうしよう

何を話されているんだろうと気になってしまった。


特に用事もないけれど、喉が渇いた気がしてお茶を飲みにキッチンに向かった。


キッチンとリビングの間にある電話でお母さんは話していた。

「あら、嬉しい悲鳴ね。なるべく早く一度お母さんの方に行くわ」

お母さんが“お母さん”と呼ぶのは

おばあちゃんだけだから

おばあちゃんと電話してるんだと

わかってほっと安心した。


「そうだ!夏月ーおばあちゃんの畑の収穫のお手伝いに行ってくれない?」


突然飛んできた質問に驚きながら

どうせ家にいても宿題以外にすることもなく

学校の友達にもあまり会いたくない

だから外に出ることもほとんどないと思う。

それならおばあちゃんの家に行った方が良いのかもしれない

そう思いながら「いいよ」と答えた。

私の今年の夏はおばあちゃんの家の畑で過ごすことが決まった。



ーーこのとき私はひと夏をおばあちゃんの家で過ごすことをまだ聞かされていなかった。

他にも色々と私の知らないところで進んでいることはあった

そのことにはあとから遭遇するたびに驚き泣くことになることもまたこのときの私は知らないままだった。