松山先生にそう告げられて

無心になったまま廊下を歩いていた。

教室に戻ると他の生徒はほとんど帰っていた。

ドアを開けると友達同士で話すために残った女子のグループにチラッと見られた。

ヒソヒソと私の悪口を言っているように感じる話し方をしていた。

感じが悪いし、気まずい……

引き出しに入れていた教科書やノートなどを急いで詰め込み鞄を掴んで教室を出た。





普段どおり駅まで歩き

電車に乗りって

家に帰って

制服から部屋着に着替えて

扇風機の前で「あー」と言う

夏季限定のストレス発散をしていた。

そのあとお母さんから“今から帰る”と

連絡が来てから

夏季の月曜日夜ごはんの恒例となっている
素麺ーー色んな人に頂いた毎年夏の間に食べきれないーーを茹でながら

お母さんに今日松山先生に言われた

「今年の夏休みは学校に行くことを控える」ことを

どんな風に伝えるか考えていた。


茹で終わる頃に帰ってきたお母さんに

「また素麺なの?」と

少し非難めいた口調で言われた。


素麺を私とお母さんの間に置いて、

お互い少しずつ箸で掴みつゆにつけ口に運んでいた。


“あのこと”をどのタイミングで切り出すか

そのタイミングを掴もうとしたが

なかなか掴めずに

特に会話もなく

ただ沈黙が続いた。


もうすぐ食べ終わるというところまで来てしまった。


タイミングを掴めないままだったが

今言わないとあとからだと

もっと言いづらくなると思って

なんとかお母さんに

「今年の夏は学校に行かない」ことを言った。


あんなに緊張していた甲斐もなく

“あのこと”があってから

お母さんとも少しだけ

気まずくなっていたことと

お母さんも察することがあったのだと思う。


母は特に何か理由を聞くこともなく

「そうなんだ」

そう ひとこと言っただけだった。