「しゃちょー。業平しゃちょー」

デスクの前でひたすら、椅子に座ってくるくる回っていた時だった。
私が丞爾くんについて思い出しているときに、現れたのはうちの会社の副社長。

参謀長で腹黒く、おまけに隣に座っただけで女性を妊娠させてしまいそうな、甘いルックスと軽い男女交際を好む軽薄な男。

くるんくるんにパーマかけてオレンジ色の帽子なんて室内でかぶっちゃって。

「なによ、直澄。とうとデキ婚でもしちゃったの?」

社長の私は、五階建てのオフィスビルの五階で閉じこもって仕事するか、隣の会議室で製品開発のチェックか、麻琴ちゃんのお婿さんを探すのが仕事。

こんな、立っているだけできつい香水のにおいがする直澄はまったく麻琴ちゃんの趣味ではない。

「あのさ、今、仕事中なんだけど。化粧のCMの書類審査。1,000人も応募来たらしいんだよ。一応、スポンサーのゴリ押しは一人いれて、こっちがオーディションで選ぶ書類ね」

お弁当みたいに分厚い茶封筒が、私のデスクの上に積み重ねられていく。

「データにしてから持ってきてくれたらいいのに」
「ついでに、このモデルとこっちのモデル、どう?」

直澄がスポンサー押しのモデル二人の写真を私に見せてきた。
唇が分厚くて、目が大きくて、胸が大きくて、頭が空っぽそう。

「どっちがお前、タイプ。あ、いや、社長はタイプ―?」