「いいわよ」
「じゃあ、お見送りしないから、さっさと帰ってきてね」
「ええ。やっとお蕎麦ですもの」
業平が裏の庭に回った瞬間、私はエプロンのポケットというポケットの中にはさみを入れて、車の後ろの座席の足元に忍び込んだ。
業平が包丁を持っていく相手。
きっと何か事件が起こっているに違いない。
案の定、業平は急いで駆け付けようとして、後ろの座席の足元まで見ない。
そのまま車を発進させたのだった。
ジョージさんには悪いけど、あくまでもあなたの心配ではなく業平の心配なんだから。
車で10分ぐらいでどこかの駐車場に止まった。
業平が深い溜息を吐いた後、渋々車から出ていく。
私は業平の後を目で追いつつ、気づかれないように車から出た。
業平が出て行った場所は、目がちかちかするようなネオン街。
法被を着たお兄さんたちや、スーツ姿のお兄さんたちが、店の前で立っている。
こんな場所、地元なのに知らなかった。
スーツ姿のお兄さんたちは、エプロンの中にはさみをいれてじゃらじゃら歩いている私には勧誘せず、サラリーマンにばかり声をかけていた。
業平を見ると、勧誘に全く目もくれずに、一番端にあるビルに入っていった。
そのあとを追うと、看板も何もない、真っ暗な二階にそびえ立つドアがパタンと閉まる。
……この中?



