あの人に会うために僕はここに来た。
早く一人前になりたいのに、伴わない自分の知識や技術がもどかしく必死に勉強した。
同期の誰よりも頑張っていると胸を張って言える。

あの人の存在を知ったのは大学4年の時だった。教授に薦められた論文の中にあの人が書いた物があった。
こんな論文を書いたのはどんな人なのか…
気がつけばあの人の論文を網羅していた。
会って話がしてみたい。
その一心でここまで来たと言っても過言じゃない。

そしてついにその日はやって来た。

「今日からこちらで研修させて頂きます、野田と申します。よろしくお願いします」
「野田先生、よろしくね。原田です。この前はわざわざ来てくれてありがとう」
「あっいえ、暇だったんで笹について行っただけなので…」

貴方に会えるかもしれないと思って…
なんて恥ずかしくて咄嗟にごまかした。