「結衣ちゃん!!」
再び青信号に変わった横断歩道を走って来たのは中岡先生だった。

「…先生」
どうしていいのか分からず途方に暮れ涙目で見上げた。

「大丈夫?座って」
中岡先生は焦る様子もなく落ち着いて私を車椅子に座らせると投げ出された本屋さんの袋を持ってもと来た道を歩きだした。

無言のまま歩く中岡先生との間に気まづい空気が流れていた。

「欲しかった本は買えた?」
「…うん」

病室までの間に交わされた会話はこれだけだった。

「座って待ってて」
中岡先生はそう言って私の手を引きベッドへ誘導した。

コートを脱ぎ大人しく座りズボンの裾をめくった。両方の膝からは血が滲んでいたけれど大怪我にならなかったのはきっと長いのを履いていたから。