「それにしてもよく颯が話したね、私のこと」

「無理やり聞き出したんだよ。昨日ちょっと様子が変だったから気になってね」

「...強硬手段過ぎない?」


咲はどこ吹く風で平然としているけれど怖い、怖すぎる。


「ここだね、颯の教室」


何度か来たことがあったから席の場所もわかる。鞄から畳んでおいたパーカーを取り出し、机の上に置いた。


「メモとか書置きしなくていいの?」

「うん。私からだってわかるだろうし、誰かに見つかったらまずいでしょ?」


颯はいつも通りでいいって言ってくれたけど、実際そんなことをすれば苦しくなるのは向こうの方だ。

幹部はいいとしても、下っ端の子たちにはどうしても動揺が広がってしまう。そうなればいざという時に統率が取れなくなる。

だからちゃんと突き放してくれていいんだよ。それで嫌いになったりしない、できないから。


「咲も今日みたいに待ち構えちゃだめだよ?”双龍の姫“なんだから」

「...わかった」


あ、これは納得してない顔だ。でも大丈夫だよね、咲はなんだかんだ言っても私の我が儘を聞いてくれる。


「さ、もう教室に行って。私はもう少し用事があるから済ませてくる」

「うん。...葵、無理しないでね?私にできることがあったら何でも言って」


そう真剣な表情で言ってくれた咲に笑みを返し、声が届かない距離になったのを確認する。ちゃんと釘は刺した。咲なら不用意なことはしないはず。

だから、どうか。


「咲のこと、お願いします」