1人になって、真が言ったことが嫌でも耳に残る。

“簡単に手放せるものだったのか”、ね。

どうして追い出す側がそんなこと言うんだろう。

まるで引き止めてくれてるみたいじゃない。私に抗ってほしいみたいじゃないか。

悲しくないはずがない。辛くないはずがない。

短い間だったけれど双龍は私の居場所だと、そう思わせてくれた。

何も持ちえなかった私にたくさんのものを与えてくれた。誰が簡単に手放せるものか。

でも...。






「とりあえず報告、かな」


じっと考えてると底なし沼に沈んでしまいそうだ。そう思って切り替えるように小さく呟いて歩き始めた。

目指した場所は理事長室。ノックして入ると、


「よう葵!」


忍さんが温かく迎え入れてくれた。


「どうしたんだ?俺に用事とは珍しいな」

「双龍を追い出されました」

「...は?」


用件だけを簡潔に告げれば、ハトが豆鉄砲食らったみたいな顔をして固まる忍さん。そりゃいきなり言われたらそうなるよね。


「先程如月先輩からそのように申し渡されました。理由は聞いていませんが、もう関わるなとそう言われました」

「俄かには信じられないが...。わかった、雅輝には俺から伝えとくよ。それで葵、お前はこれからどうするんだ?」


答えはわかってるけど念のための確認な、そう言って微かに笑みさえ浮かべる忍さんはどこまで行っても優しい人だ。

私のすべきこと。したいこと。そんなもの、決まってる。


「意思は変わりません」


双龍を守る。黄牙を潰す。双龍にいられなくなってもそれは揺るがない。何としても黄牙がもたらす地獄を止めなくてはならない。


「そうか。お前が決めたことならそうすればいい。ただ、無理だけはするな」

「はい。ありがとうございます」


夏休み前にも同じ話をした。けれどあの頃と比べて、状況は格段に悪くなっている。

藤崎が私に会いに来たってことはもうあちら側の準備が整ったってことだから。

もう抗争が目前に迫ってるってことだから。

私がしっかりしなくちゃ。沈みそうな気持ちを切り替え、一礼してから理事長室を出た。