葵side

結局昨日はよく眠れなかった。目を閉じるとあの日の光景が蘇ってくるからだ。

いまいちすっきりしない頭を無理やり覚醒させ、身体に鞭打って制服に着替える。

今日は始業式だけでお弁当も必要ないので随分と身軽だ。

いざ学校へ、と思ったところにポケットに中の携帯が震える。取り出して確認してみると、メールが一件、永和先輩から届いていた。

そこには簡潔に一文だけ、”放課後、屋上に来い“と書かれていた。

いつもはメールなんて使わないのにどうしたんだろう。

永和先輩からなんて珍しい、というか初めてのことで違和感が拭えない。聞こえないはずの警鐘が鳴り響いて、行くなと止められてるみたいだった。

そしてその違和感は徐々に確かなものとなっていった。




学校への道すがら、今日はやけに視線を感じる。

初めて双龍の倉庫に行った次の日によく似ているけれど明らかに違うもの。

嫌悪。侮蔑。怒気。

視線の中にはそれらが含まれていた。

声をかけてくる人がいないだけ良かったのかもしれない。転校してから数か月たった今でも友達と呼べる存在はいなかった。

誰だっけ、初日に友達になりたいとか言ってた人。まあ、真っ先に双龍と関りを持ってしまったのだから当然と言えば当然か。

この学校には双龍に対しての憧れや尊敬が多すぎる。



教室にカバンを置いて、体育館に移動し、理事長の挨拶を聞く。いつも通りのこの過程がひどく億劫だ。

簡潔なはずの忍さんの話さえ、今の私には長く感じた。終始注目されているせいか、始業式だけなのにどっと疲れた。


正直このまま帰ってしまいたい。

そんなわけにもいかないか。


重い気分を背負いつつ屋上への階段を上がる。嫌な予感を無理やり押し込み、できるだけ普段通りに。

意を決してドアを開けた。