「どうかした?」
「電話です。ちょっと出てもいいですか?」
ゆっくりでいいよ、と言ってくれる先輩から少し離れてディスプレイを確認する。
「っ!」
思わず息を呑んだ。
もう二度と、見ることはないと思っていた名前が表示される。
震える手で通話ボタンを押し、恐る恐る電話に出た。
「...もしもし」
「葵?久しぶり」
「龍斗、くん」
「うん。元気だった?」
由希先輩とはまた違う、優しい声。いつも私を助けてくれる、ひどく懐かしい声。
「元気だよ。...龍斗くんは?変わりない?」
「もちろん。俺も他のやつらもピンピンしてるよ。騒がしすぎるくらいだ」
「そう、なんだ」
「葵、下覗いてみ?」
声のトーンを変えることなく龍斗くんは言う。そっと言われた通り柵の外側に首を出して見下ろしてみると、薄っすらバイクのランプと隣にたたずむ人影が見えた。
きっと普通の人なら見わけがつかないであろう暗さ。でも私にはその影が龍斗くんであるとはっきり分かった。