「その時だよね、初めて信乃たちの憧れを聞いたのって」

「憧れ?それって暴走族のってこと?」

「そうだよ。ね?永和くん」

「ああ」

「俺たちみんな玖蘭にずっと憧れてるんだよ」


由希くんの言葉を聞いた一瞬、葵の顔が強張った気がした。


「っ、玖蘭?」

「そう、全国一位の実力者たちだけど構成人数は少ないって噂だよ。確かうちの半
数くらいだったかな」

「...双龍は確か100人弱いましたっけ?」

「うん。一人一人が幹部クラスの強者ぞろいみたいだけど、中でも先代の総長は別格でね」

「あー“雪華”だろ?なんでもケンカがすげー綺麗なんだって!葵はそういうの興味ない?」

「...んー、私はちょっとわからないかな。でもそんな風に言ってもらえるなんて、本当に憧れなんだね」


少し目を伏せる葵。なんだかすごく寂しそうに見える。それにどっか行っちゃいそうな気さえする。

みんなは、気づいてないみたいだけど。


「一度でいいから会ってみてえよなー」

「ま、仕方ないよ。玖蘭の情報は何重にもロックかけてあって俺でも突破は無理だし、代替わりしてから特に噂も流れてきにくくなったからね」


この話は終わり、という風にソファーから立ち上がる由希くん。そしていいことを思いついたようにニコッと笑って、


「せっかくなら今日走りに行ってみる?」


と言った。