あなたの心臓になりたかった

私は、気がつけば泣いていた。結衣先生がティッシュを差し出してくれたので、鼻をかむ。

「そっか……。苦しかったんだね……」

結衣先生は変わらず微笑んでいてくれる。ますます涙が止まらない。

だって、私の話を聴いてくれるのは、結衣先生だけだから。



六時近くまで結衣先生とは話していた。心の傷は、少しだけ癒えたかもしれない。やっぱり、話を聴いてもらうって大切だ。

「先生、ありがとうございました」

ペコリと結衣先生に頭を下げる。結衣先生は「気をつけて帰ってね」と笑ってくれた。私も久しぶりに微笑み、家へと帰る。

夏になったばかりの六時は、まだまだ明るい。私は何も考えずに家へと歩く。人と話した後に家のことを考えたくないんだ。だって、独りだから。

大きな一戸建ての家の前に立つ。ここが、私の家。六時だというのに、どの部屋にも明かりはついていない。だって住んでいるのは私だけだから。

鍵を差し、ドアを開ける。静まり返った家の中からは、冷たさだけが伝わってくる。私は何も考えないようにして、リビングへと入った。こんなの、ずっと昔からじゃない。