あなたの心臓になりたかった

「蛍さんは、どうしてここにいるんですか?」

私がそう訊ねると、蛍さんの顔から一瞬表情が消えた。いけないことだったのかな?どうしよう、謝らなきゃ!私、私……。

「癌なの。もう身体中に転移していて手の施しようがないんだって。お母さんたちはメンタル面がちょっとアレでね……。泣いてる姿なんて見たくないから自分から「ここに入所したい!」って言ったんだ」

私が謝るよりも前に、蛍さんは笑って言った。癌?この人が?こんなに笑っている人が?

「ここに来て、毎日楽しく暮らせてるよ。趣味の絵もたくさん描けるし!」

そう言い、蛍さんは引き出しを開けて何枚も絵を取り出す。風景画、人物画などたくさん……。絵のことなんて全く知らない。でも、とても綺麗……。

「ずっと画家になりたくてさ、高校生の頃にイタリアに留学したことがあるんだよね。それで美大に合格して通い出したと思ったら癌って診断されちゃってさ。でも、念願だったイタリアに行けたから満足かな」