「よくあること」
8月の半ば。連日のように続く猛暑。運が悪いことに部屋のクーラが壊れた。ベランダ側の大きい窓からは容赦なく西日が差し込み、頼みの綱の扇風機は生ぬるい風を送るだけ。6畳間の小さいアパートの部屋はあっという間にサウナのようになった。これじゃあ外にいるのと何ら変わらない。 あまり暑すぎると人は溶ける。なんてことを冗談で言っていたけれど、この暑さじゃ本当に溶けても不思議じゃない。そう思った矢先。ぼとり。鈍い音と共に右腕に違和感を感じた。ちらっと右腕の方を見てぎょっとした。肩から下が無くなっているではないか。フローリングには右腕…と思われる塊。その塊は、コンクリートの上のアイスのようにドロリと溶け出している。なんだこれは。僕は慌ててアルバイト先に電話をした。
「はい、ファミリーレストランパナン小平店です。」
「お疲れ様です。アルバイトの隅田瑞生(すみだ みずき)です。今日のアルバイト休ませて頂きます。」
「なんで?」
店長はいつも不機嫌だ。
「腕が溶けました。」
「そうですか。それはお大事に。」
ぶっきらぼうにそう言われると乱暴に電話は切られた。