「ついてくるって他に言い方はなかったの?
もちろんそこまで気持ち悪いことはしないよ」
完全に警戒している私に対し、坂野先輩は依然として優しい笑みを崩さない、
「そうだ、与倉さん。
連絡先を教えてよ」
「……え」
ようやく坂野先輩と別れの時だったけれど。
連絡先を聞いてきたために、思わず構えてしまう。
「またそんな警戒する。
バイト関連のことで連絡するだけだから、多分」
多分…多分とは?
その言い方が少し不安だ。
「バイト関連の緊急連絡先とでも思っててよ」
「……わかりました」
まだ疑いの気持ちは晴れないが、連絡先を交換することに了承した。
「じゃあまたバイト先でね」
「……はい」
坂野先輩ならバイトも大丈夫そうだと思っていたけれど、今は不安で仕方がない。
一瞬バイトの面接を断ろうかと思ったけれど───
『好きな人、俺が忘れさせてあげようか?』
坂野先輩の言葉が脳裏をよぎって。
この気持ちを忘れる、それってひとりでは困難だ。
もし本当に坂野先輩が忘れさせてくれるのなら、それはそれでいいのかもしれない。
とはいえ私が彼を好きになる気はしないのだけれど。
今だって好感度がだだ下がりである。
それでも文香や坂野先輩が作ってくれたきっかけを無駄にしないよう、その気持ちはグッと堪えた。



