「いいね、誰かを好きになれるって。
羨ましいなぁ」
少し、ほんの少し。
坂野先輩の声が冷たく、素っ気ないように聞こえた。
「あの、手を離してください」
話を変えて坂野先輩の言葉をなかったことにしようと思った。
とはいえあまり目立ったことはしたくない。
手を離してもらおうと思い、その意思を口にしたのだけれど。
「……与倉さんみたいな人、初めてだな」
「えっ…」
「こんなにも俺を拒否してくる人、初めて」
「そ、それは…坂野先輩が悪いんです!」
悲しそうに言う坂野先輩だが、悪いのは彼自身である。
「でもそんな与倉さんのこと、嫌いじゃないよ」
「わ、私は嫌いです…!」
好感度は高い方だったというのに、今日で一気に嫌いまで落ちた。
「最初から嫌われるのも経験したことないな…何か楽しそうな予感がするね」
「な、何言ってるんですか…!」
少しテンションがおかしくなってしまったのだろうか。
坂野先輩がこんな人だなんて思いたくない。
「も、もうすぐ家に着くんでここで大丈夫です」
家のあるマンションが見えてきたため、ここで別れを告げるけれど。



