「寒いね、防寒具の季節かな」
「そうですね…」
荷物になるため防寒具をつけずに耐えていたけれど、そろそろ寒さに限界を迎えていた。
行き帰り、素直に防寒具をつけるべきだろうか。
「ん、美味しい…」
ココアを一口飲めば、甘さが口いっぱいに広がる。
濃厚なココアは甘くて美味しかった。
「与倉さんってかわいい表情、たくさんするんだね」
「えっ…」
「見た目は大人びてるのに、幼くてかわいいなって」
「……っ!?」
私の目をじっと見つめ、さらっと褒めてしまう坂野先輩が怖い。
今まで何人の女子をオトしてきたのだろう。
「か、かわいくないです…!」
歳上の人はみんな、私を子供扱いする。
本当はオトナに見られたいというのに。
ってダメだ、ダメ。
また紘毅くんに近づきたいなんて思ってるよ私。
新たな恋はどうしたんだ。
そのために今日、坂野先輩と会って───
「好きな人、俺が忘れさせてあげようか?」
「……へ」
信号が赤になって立ち止まる中。
坂野先輩が目線を合わせるように少し頭を下げ、私を見てきた。



