「ありがとう。
じゃあ俺が送っても大丈夫だね」
「え、あっ…」
薄笑いを浮かべる坂野先輩は少しだけ悪い人に思えたけれど、きっと気のせいだろう。
ここはもう紘毅くんの迎えを断ろう。
そう思い、スマホを取り出した。
【紘毅くん、やっぱり今日は迎え大丈夫。
ごめんね、ありがとう】
駅から家までそう遠くはないけれど、迎えとなればいつも車で駅まで来てくれる紘毅くん。
車だと周りの目を気にせず帰れるからだ。
私としても紘毅くんの運転姿が見られるから嬉しい。
けれど、今日はお預けのようだ。
いや、これが吹っ切れるための第一歩かもしれない。
「“ヒロキくん”に断ったの?」
「…っ!?」
坂野先輩の優しい声に、慌ててスマホを隠したけれど。
「大丈夫、見てないよ。
そんなに焦らないで?」
「うっ…」
ついつい大きな反応をしてしまう私を見て、何やら楽しそうに見えなくもない。
爽やかで優しい、王子様のようなイメージだったけれど、それは崩れつつあった。



