「そんな…坂野先輩が謝ることないです。
それよりもすみません、気を遣わせてしまって」
まずはお金を返そうと鞄から財布を取り出そうとしたが、坂野先輩にそれを制されてしまう。
「今日のお詫びということで、俺に奢らせてよ」
「えっ、そ、そんなの悪いです…」
「これから一緒に働くことになるんだし、気にしないで」
その爽やかな笑顔に対して何も言えなくなる。
ここは素直に甘えることにした。
「じゃあこの後はどうしようか」
「えっ…」
「あれ、真っ直ぐ帰るつもりだった?」
まさにその通りだったため、何も言えなくなる私に対して坂野先輩は眉を下げて笑った。
「それじゃあ与倉さんの家まで送っていくよ」
「そ、そんな…大丈夫です!」
そんなの悪いと思い、慌てて断ったその時───
「“ヒロキくん”が迎えに来るから?」
「……っ!?」
どうして、と真っ先に思った。
どうして紘毅くんのことを?
頭が真っ白になる私に坂野先輩は申し訳なさそうに言った。
「ごめんね、スマホの画面が見えちゃって」
悪気はなさそうだったけれど。
これは一大事である。



