文香は嬉しそうだし、東山先輩も心なしか明るい雰囲気を放っているような気がする。
「そ、それから…あの、この間は電話でキツイこと言ってごめんなさい」
ふたりが先に席に向かい、後を追うように続く私はなんだか除け者にされた気分だ。
いっそのこと帰ってやろうかと思ってしまうくらい。
「俺も受験で大変な文香を支えてやれなくてごめんな?昨日も結局話せなかったし」
うん、すごく良い彼氏さんじゃないか。
文香のことを大切に思ってくれているのだ、羨ましい。
って、ダメダメ。
嫉妬したところで自分の価値が下がるだけだ。
「ほら、ふたりとも。イチャイチャするのは良いけど、後ろの子…困ってるよ」
とはいえこのふたりの間には入れないため、本当にどうしようかと思っていたその時。
まるで救世主のような声が聞こえて来た。
パッと顔を上げると、先ほど東山先輩が座っていた席からもうひとりの男性が姿を見せたのだ。
穏やかな雰囲気を放ち、優しげな瞳でこちらを見ている彼が坂野先輩だ。



