その時、反対側の道を歩く紘毅くんがこちらを向いた。
少し離れていたけれど、視線が交わったのである。
彼の視界に私が捉えられたのだ。
「紘毅く…」
「ねぇ与倉さん」
「えっ…」
今度こそ紘毅くんに向けて名前を呼ぼうと思ったけれど、それを遮るように坂野先輩が私の名前を呼んで。
それから突然顔を近づけてきたかと思うと───
私の目の前が坂野先輩でいっぱいになる。
それから頬に唇を当てられて。
チュッとキスを落とされてしまった。
「……へ」
「唇は避けといたから」
坂野先輩の綺麗な顔が視界いっぱいに広がって。
そのせいで紘毅くんの姿が見えなくなってしまう。
「な、な、なんで…キスなんか…」
「んー、焦りのせいかな」
「はい?」
「じゃあ俺はもう帰ろうかな」
頭が追いつかないうちに、坂野先輩が私から離れる。
そして紘毅くんの方を向いたかと思えば、一度小さく会釈した。



