「そもそも紘毅くんも悪いんです、忘れさせてくれない」
「それは好きなんだから仕方ないよね。
いっそのこと嫌いになりなよ」
「む、無理ですそんなの…!」
嫌いに慣れだなんて。
さらにハードルの高いことを言う。
けれど───
「それに、もうすぐ家を出るんです。
自然と紘毅くんのことは忘れられます」
タイムリミットは刻一刻と近づいているのだ。
サヨナラの時間はすぐそこまできていた。
「そんな顔されたらさ」
「……え」
「手を出したくなるよ、与倉さん」
「…っ!?」
笑みをなくして、あまりにも真剣な顔で言うから。
本気だと捉えてしまう。
「も、もう早く帰ります…!」
「えー、悲しい。切り替えが早いね」
「また私をからかって…!嫌いです」
坂野先輩から視線を背けるようにしつつ真っ直ぐ前を向く。
何気に家までもうすぐだ。
ここはスルーを貫き通そうと思って、足を速める。



