ようやく視線が交わった。
「あ…ごめんね、今のは忘れて」
「忘れないです」
「……え」
「誰かに話を聞いてもらうだけでも楽になるらしいです。私は何もできないですが、話を聞くくらいはできます」
そんな私は紘毅くんに救われた。
話を聞いて、さらに紘毅くんは手を差し伸べてくれたのだ。
今度は誰かを救う側に立てるのなら、迷わずに立ちたい。
「……うん」
少しの沈黙が流れたかと思えば、突然坂野先輩は笑った。
「ありがとう。
でもその言葉だけで十分だから」
「えっ…」
「ほら、言うている間にもうすぐだよ」
最初は戸惑ったけれど、話すも話さまいも坂野先輩の自由だと思い、それ以上聞くことをやめる。
店の中へ入る頃には、先ほどの姿が嘘だったかのようにいつも通りの坂野先輩がいた。



