「こう見えて俺、高校の間は真面目だったんだよ」
「……え」
「遊び人になったのは一人暮らしを始めてから。
両親の監視から逃れたがきっかけ」
「監視…」
あまり良くない表現の仕方。
一体坂野先輩の家庭にはどんな事情があるのだろうって。
「完璧主義なんだ、俺の両親は。どんな失敗も許されないって。だから大学も一流じゃないとダメだったし、一流企業に就職するのが絶対条件で一人暮らしの許しをもらえたから…頑張らないとね」
力なく笑う。
今の坂野先輩は少し弱気に見えた。
「一流企業ってどこまでのことを言うんだろうね」
「……坂野先輩」
「どこに就職したら親は満足するんだろう」
「坂野先輩…!」
我を失っているように思えて、坂野先輩の手をギュッと握ってみる。
すると彼はハッとしたような表情をし、私の方を向いた。



