「…与倉さん」
「なんですか?」
「この微妙な距離は何?」
「け、警戒してるって証拠です…一応」
坂野先輩の二歩先を歩く私が気になったのか、そこに触れられてしまう。
「あからさまに避けないでよ」
痺れを切らした坂野先輩が私の手をそっと握ってきた。
こんな外で堂々と手を振り払うこともできず、握られている手も意外と力強い。
「は、離してください…!」
「んー、俺いい考え思いついたんだけどさ」
「遊び相手にはなりませんよ!?」
「それは知っているよ。あんなに拒否されたんだから」
じゃあ他にどんな考えがあるのだ。
なんとなく嫌な予感しかしなかったけれど。
「まずはトモダチになるのはどう?」
「……友達」
友達なら…と思うのは、きっと遊び相手と比べるとだいぶマシだからだろう。
とはいえ相手は危険人物だ。
早々に心を許すなどできない。
「ね、トモダチとして充実した日々を送ろうよ。
そしたら案外“ヒロキくん”のことは忘れられるかも」
そう言って爽やかな笑みを浮かべる坂野先輩は、なんとなく信用できない。
何より繋がれた手がそれを証明している。
なんと言ったって恋人繋ぎである。



