三月一日。三年一組の教室は、普段と違う空気だった。

多くの生徒が写真を一緒に撮り、今にも泣いてしまいそうな表情だ。黒板には、大きく「卒業おめでとう」と書かれている。そう、今日は卒業式だ。

「東京行っても、うちら友達だからね!」

「名古屋で頑張れよ!」

「成人式で会おうな!」

「絶対、忘れないから!」

そんなことを話すクラスメートたちを、一人の女子生徒が冷めた目で見つめていた。名前は、一ノ瀬美風(いちのせみかぜ)。卒業したら、アメリカに留学することが決まっている。

そんな彼女の周りには、人は誰もいない。誰も美風に話しかけない。みんなが少しずつ温かくなってきた空気に包まれ、笑顔で話す中、美風だけはうつむき、冷たい空気の中に閉じこもっている。

「……これで、いいの……」

美風の呟きに、誰も振り返ろうともしない。美風は「孤独」だ。しかし、美風はそれを望んだ。自分の存在が未完成で、どうしたらいいかわからない。だから、人から遠ざかって生きようとした。