「ちょっと黙ってろ」
わたしが抵抗する間もなくそのハンカチをわたしの口元に当てた。
ひんやりと少し冷たく、水浸しのハンカチが唇に当たる。
何がしたいのかよくわからなかったが、どうやら悠馬はハンカチでわたしの口元を拭いていた。
一見乱暴のようだが、だけど痛みはほとんど感じられず、その手つきは優しかった。
「ちょ、悠馬なにしてんの?」
口元からハンカチが離れたタイミングで、悠馬を押しのけて聞いた。
「……簡単にキスされてんじゃねえよ…!」
その声のボリュームと悠馬の迫力にビクッと体が跳ね上がった。
…見てたんだ。
さっきのこと。
その怒りに満ちた悠馬の目を見れず、わたしは俯くことしかできなかった。
そして何故かその悠馬の様子を見て、泣きそうになった。
なぜかはわからない。
だけど気を引き締めていないと涙が溢れそうだった。

