「は?」


 思わず声を出してしまった。


「!……もしかして聞こえてる?」

 素早く反応した湊が身を乗り出す。

 しまった、と思った私はとにかく無言でテレビを見つめた。
 しばらくすると、ニュースに対しての独り言だと思ってくれたようで彼はゆっくりとその場に座り直した。

「まぁ、見えてるわけないかー。幽霊だもんな俺」


 何でもないふうにそう呟く彼の言葉に、私は自分の心臓の音がとても大きく響いているのがわかった。
 この湊は、本物なんだ。
 本物の幽霊なんだ。


 その後私は、湊に見られないようにユニットバスになっているお風呂場で着替えて、準備をして早々に家を出た。

 帰る頃にはいなくなっていると思っていたけれど、真っ暗な部屋の明かりをつけると、湊は本棚に寄りかかって眠っていて。

「ただいま」

「……ん、おかえり」

 むにゃむにゃとそんな事を呟くものだから、つい笑ってしまいそうになる。なんとか我慢したけど。


 それだけを言うと湊はすぐにまた寝てしまったので、私は夕飯を適当に作って食べてから、軽くシャワーを浴びてベットに腰掛けた。すると、愛衣からメッセージが来てーー……そうして今に至る。



 電気を消して横になっても、まだそばからは湊の気配がした。

 薄目を開けてみると、頬に少し骨ばった私よりも大きな手のひらがかすかに触れているのがわかって、

「……里奈、ごめん」

 湊の震えた声が聞こえた。


『……泣いてるの?』

 湊の涙はあまり見たことがない。珍しい、と思いながら目を閉じる。


 湊はいつまでここにいるのか。何で私に会いに来たのか。どうして泣いているのか。…私のこと、もう何とも思ってないんじゃなかったの?
 聞きたいことは山ほどある。けれど、私はそれらの答えを聞くのが、知るのが、怖かった。


 よほど驚いて疲れたのか、考えているうちにゆっくりと睡魔が襲ってきて、気づけば眠りに落ちていた。