***
エドガーの家に居候すること一ヶ月半、ついに念願のランチワゴンが完成した。
外装はオレンジ色とベージュの縦縞模様が入っており、赤色の軒先テントにはニコニコ弁当のシンボルであるニコちゃんマークがついている。
中を覗けば広々としたキッチンがあり、私が頼んでいたコンロと冷蔵庫、ポットまであった。
テーブルや椅子、看板なども載せられるようにするためか、エドガーの発明したランチワゴンは日本にあるものより大きい。
「か、かわいい! エドガー、これをひとりで作っちゃうなんて本当にすごいよ!」
「オートモービルの原理を使ったんだよ。いろいろ設備をつけたら大きくなっちゃって、原動機をいくつもつけたから重量もある。実際に走らせてみて、もっと改良していかないと」
照れくさそうに後頭部に手を当てながら、エドガーはずり下がった眼鏡の位置を直して控えめに笑う。
私は嬉しさのあまり、思わず彼の手を握って飛び跳ねてしまう。
「本当にありがとう! ランチワゴンだけじゃなくて、私の背中を押してくれたことも、全部ぜんぶありがとう!」
「れ、礼を言うのは俺のほう」
私に握られた手をちらちらと見つつ、エドガーは静かに語りだす。
「俺、親の仕事を継ぐよりも発明家として生きていきたくて家を飛び出したんだけど、自分の発明が誰かの役に立ったことってなかったんだ。でも……」
私を見て目を細めるエドガーに、早鐘を打つ鼓動。エドガーの碧眼がいっそう澄んでいく気がして吸い込まれそうだと思っていると、決意を感じさせる強い一声が耳に届く。
「雪といたら、自分の技術を生かせるかもしれない。ガラクタなままで終わらせたくないんだ、俺の発明を。だから、きみの旅に俺も一緒に連れていってほしい」
「エドガー、なに言ってるの?」
「え?」
「私は初めから、一緒に行くつもりだったよ? だって、ニコニコ弁当屋はエドガーと作ったみたいなものだもん。エドガーがいないなんて、意味ないよ! 今さら『いってらっしゃい』なんて送り出されたら、つれないにもほどがある!」
ランチワゴンの設計図を作ったときから、私が勝手に勘違いしていたのだろうけれど、エドガーありきの旅だと思って準備を進めていた。
「ひとりで異世界を旅するなんて心細いし、エドガーも一緒だよ? 絶対に楽しい旅になるはずだから!」
「うん、俺もそう思う」
私がエドガーと握手を交わしていると、近くで土を踏む音がした。
エドガーと同時に振り向けば、バルドさんが片手を上げながら近づいてくる。
「この間の返事をしに来た」
それがなにを意味するのかは、すぐにわかった。
酒場で旅に誘ったときの答えをくれるのだろう。
私は大きな荷物を肩に担ぎ、目の前に立つ彼に向き合う。
「陛下から無期限の休暇を頂戴した。騎士団は俺がいなくても十分に動ける者ばかりだ。身辺整理も済んだからな、これで心置きなく旅立てる」
「じゃあ、バルドさんも旅に参加ですね!」
「ああ、身の振り方は決まっていないが、今は雪についていくほうが面白そうだと感じた。用心棒兼店員として、しっかり働かせてもらおう」
「はい! よろしくお願いします」
これで、旅の仲間はロキを含めて三人。にぎやかになりそうだと思っていると、馬の嘶きが聞こえた。一台の幌馬車がエドガーの家の前に停まり、御者席からオリヴィエが降りてくる。
エドガーの家に居候すること一ヶ月半、ついに念願のランチワゴンが完成した。
外装はオレンジ色とベージュの縦縞模様が入っており、赤色の軒先テントにはニコニコ弁当のシンボルであるニコちゃんマークがついている。
中を覗けば広々としたキッチンがあり、私が頼んでいたコンロと冷蔵庫、ポットまであった。
テーブルや椅子、看板なども載せられるようにするためか、エドガーの発明したランチワゴンは日本にあるものより大きい。
「か、かわいい! エドガー、これをひとりで作っちゃうなんて本当にすごいよ!」
「オートモービルの原理を使ったんだよ。いろいろ設備をつけたら大きくなっちゃって、原動機をいくつもつけたから重量もある。実際に走らせてみて、もっと改良していかないと」
照れくさそうに後頭部に手を当てながら、エドガーはずり下がった眼鏡の位置を直して控えめに笑う。
私は嬉しさのあまり、思わず彼の手を握って飛び跳ねてしまう。
「本当にありがとう! ランチワゴンだけじゃなくて、私の背中を押してくれたことも、全部ぜんぶありがとう!」
「れ、礼を言うのは俺のほう」
私に握られた手をちらちらと見つつ、エドガーは静かに語りだす。
「俺、親の仕事を継ぐよりも発明家として生きていきたくて家を飛び出したんだけど、自分の発明が誰かの役に立ったことってなかったんだ。でも……」
私を見て目を細めるエドガーに、早鐘を打つ鼓動。エドガーの碧眼がいっそう澄んでいく気がして吸い込まれそうだと思っていると、決意を感じさせる強い一声が耳に届く。
「雪といたら、自分の技術を生かせるかもしれない。ガラクタなままで終わらせたくないんだ、俺の発明を。だから、きみの旅に俺も一緒に連れていってほしい」
「エドガー、なに言ってるの?」
「え?」
「私は初めから、一緒に行くつもりだったよ? だって、ニコニコ弁当屋はエドガーと作ったみたいなものだもん。エドガーがいないなんて、意味ないよ! 今さら『いってらっしゃい』なんて送り出されたら、つれないにもほどがある!」
ランチワゴンの設計図を作ったときから、私が勝手に勘違いしていたのだろうけれど、エドガーありきの旅だと思って準備を進めていた。
「ひとりで異世界を旅するなんて心細いし、エドガーも一緒だよ? 絶対に楽しい旅になるはずだから!」
「うん、俺もそう思う」
私がエドガーと握手を交わしていると、近くで土を踏む音がした。
エドガーと同時に振り向けば、バルドさんが片手を上げながら近づいてくる。
「この間の返事をしに来た」
それがなにを意味するのかは、すぐにわかった。
酒場で旅に誘ったときの答えをくれるのだろう。
私は大きな荷物を肩に担ぎ、目の前に立つ彼に向き合う。
「陛下から無期限の休暇を頂戴した。騎士団は俺がいなくても十分に動ける者ばかりだ。身辺整理も済んだからな、これで心置きなく旅立てる」
「じゃあ、バルドさんも旅に参加ですね!」
「ああ、身の振り方は決まっていないが、今は雪についていくほうが面白そうだと感じた。用心棒兼店員として、しっかり働かせてもらおう」
「はい! よろしくお願いします」
これで、旅の仲間はロキを含めて三人。にぎやかになりそうだと思っていると、馬の嘶きが聞こえた。一台の幌馬車がエドガーの家の前に停まり、御者席からオリヴィエが降りてくる。


