ストロベリーキャンドル




*


「ザッキー、どうしたん?」


「前田さん。別に何もないですよ」


私に「ザッキー」というあだ名をつけた張本人である、
前田聡さんが私の顔を覗き込んだ。


「嘘だ。だってさっきからもう、ため息35回目だぜ」


「なっ、数えてたんですか?」


「へへ。うっそー。
 でも数えてないけど、ため息多いぞ?
 なんかあったん?」


「ちょっと、疲れていて……」


愛想笑いでそう言うと、前田さんは腕を組んで私を見つめ、
それから私の手を引いて立たせた。


首を傾げていると、そのまま引っ張られる。


黙ってついて行くと、資料室へと押し込まれた。


「ま、前田さん。仕事しないと」


「いい。俺が許す。こっちのが先だろ。
 で、何があったん?」


前田さんはとても面倒見がいい。
私の仕事も率先して手伝ってくれるし、
いつもみんなを見ていて、小さな変化に気付く。


笹野さんが彼氏に振られて落ち込んでいるのも見抜いたし、
吉田さんが人に騙されたことも見抜いたし、
部長が子育てに疲れていることも気付いていた。


よく人を見ている人なんだと思うけれど、
まさか私のことまでも分かるなんて。


まだ1か月しかいないのに。


「実は、旦那が事故に遭って……
 記憶喪失になってしまったんです」


「えっ?記憶喪失?」


顔をしかめる前田さん。


そうだよね、記憶喪失なんて滅多にないことだもんね。
私だって、まさか仁がそうなるなんて思わなかったもん。
 

前田さんは私の肩を掴んで顔を覗き込んだ。