「そう。結婚したの。だから今は神崎奏音。
6月まであなたと同じ大宮物産で総務の仕事をしていたのだけど、
私が不倫……っ」
言いそうになってはっとした。
不倫なんて最低なワード、今の仁に言っても大丈夫かな。
口を噤んで手を口に当てると、
眉をあげてじろっと私を睨む。
早く言えと言われているみたいで逆らえなかった。
「私が、不倫をしてしまっているところを仁が助けてくれたの。
私と結婚してくれて、会社をやめることに。
それで私は、先月からアサヒ文具で働いているわ」
「あんたが不倫?頭大丈夫か?
俺がそんな最低な女と結婚するとでも?」
「そ、それは……。でも、仁は私がいいって言ってくれて……
ほら、指輪だってしてるし」
「……それが本当の話だとしたら、離婚だ、離婚。
俺に気持ちはないんだ。
こんなもの、つけていたって何の意味もないよ」
仁はため息をついて自身の左手薬指についている指輪を外した。
そして立ち上がる。
私を見下ろして、ふっと鼻で笑った。
「まぁ一緒に住んでいるっていうなら仕方ない。
いてもいいけど、俺には一切構わなくていい。
俺に干渉はしないでくれ。それ以外は、好きにしていい」
「あっ、ちょっと、待って!」
私の声を聞かずに、自室へと入ってしまった。
仁の自室の扉を叩いて、仁を呼ぶ。
それでも、仁が応えてくれることはなかった。
そのまま扉に背中をつけて座り込む。
薬指についている指輪を押さえて、ポロリと涙を零した。


