青ざめている仁の顔を見つめる。
嘘でしょ。
そんな、そんなことってある?
「仁。分からない?私だよ。奏音だよ」
「だから、誰だよ、あんた」
「じ、ん……嘘……まさか、そんな……」
ポン、と武田部長が私の肩に手を置いた。
冷たい仁の瞳が私を射抜く。
何が起こっているのか分からなかった。
「神崎くん、私のことも分からないかな?」
「誰ですか……?」
武田部長のことも分からないと言う仁は、
頭を抱えてかぶりを振った。
ふざけているとかじゃなく、
本当に分からないといった様子だった。
それだけに、私の不安は大きくなるばかり。
ドクターが武田部長に何かを話し、病室を出て行った。
「処置は一応一通り済んだそうだ。
外国ということもあるし、問題はなさそうだから
日本に帰国して通院したほうがいいとのことだ。
すぐに帰国の手配をするから、君はここにいてあげなさい」
「は、はい……」
「とにかく落ち着いて。焦ることはないよ」
笑って出て行く武田部長を見て、落ち着かなきゃと思う。
部屋に残された私は、仁の方を見た。
誰だこいつ、と言わんばかりの冷たい瞳。
それは仁のものじゃないと思うくらい怖くて、見てられなかった。
すぐにそらしてしまう。
旦那なのに、怖いだなんて。
「あの、何でいつまでもここにいるんですか?」
「えっ?あ、あの……私は、あなたの……」
「俺の名前、何て言ってたっけ?」
「神崎、仁だよ……」
本当に記憶喪失なんだ。
その事実はいくら確認してもひっくり返ることはない。
自分の名前を確かめるように呟く仁が、
なんだか遠くに行ってしまったみたいだった。


