「本当に、働くの?」



とある夕食の時間。
慣れない手料理を一緒に食べている時に、
仁が心配そうに言った。


私はかぼちゃの煮物をつついて仁を見た。


「うん。働いていた方が性に合っているし、
 ずっと仁に任せっきりはよくないと思うし」


「俺はずっと家庭に入っていてくれるほうが安心なんだけど」


「だって、世間知らずにはなりたくないもの」


「うーん。そういうことかぁ」


仁もみそ汁をすすって唸る。
納得してくれたけれど、それでも心配の表情をして私を見ている。


そんなに心配かな。
もしかして私がまた不倫をすると思っているのかしら。


「大丈夫よ。ふ、不倫なんて絶対にしないから!」


「そういう心配はないけど。
 奏音は引っ込み思案だし、
 上手く人間関係を築けるかどうか心配なんだ」


そういうことか。
本当に、仁は私のことを知り尽くしている。


私は来週からアサヒ文具の商品開発部で働くことが決まっているけれど、
人間関係に関しては少し不安がある。


七海みたいに向こうから声をかけてくれるならいいけど、
自分から輪の中に入っていくのはどうも苦手なのだ。


「私、頑張るから。そろそろ私も変わりたいの」


「奏音がそう言うなら俺は応援するよ。
 辛くなったら我慢しないんだよ」


「うん。ありがとう」


「最近、奏音は前みたいに謝る癖が抜けてきたね」