「ん。良く出来ました。二人の時は敬語も取ろう。
 呼び捨てなのに敬語なのは、ちょっとおかしいからね」


「え、ええ?そんなこと出来ません」


「君は俺のお願い、聞いてくれないの?」


より一層優しい目で見つめられると、二の句が継げなくなる。
もうしょうがない。彼に全部任せよう。
そう思ってため息をついた。


「わ、かりました」


「敬語」


「わ、分かった……」


「ん。それでいいよ、奏音」


葛城さんに呼ばれている時よりも、はるかに耳の心地がいい。
こんなに優しい声で名前を呼ばれたことはない。


ああ、本当にお付き合いを始めたんだ、
という実感がいよいよ湧いてきた。


嬉しくなって残っていたオムライスを口に含んで笑う。
すると彼が私の方に手を伸ばしてきて、頭に手を置いた。


「な、に……?」


「いや、かわいいなと思って」


真剣な顔つきで言う彼。
恥ずかしくなって俯くと、わしゃわしゃと頭を撫でられた。


触れられている部分が温かい。
そして彼は私に言葉をくれた。







「君が好きだ。奏音」





ジャジーな音楽に包まれて、私は一筋の涙を流した。


ああ、やっと幸せになれる。
そう噛みしめて、彼の言葉に感謝した。