ストロベリーキャンドル




「会社にはまだ秘密にしていてください。お願いします」


「敬語じゃなくていい」


「えっ?」


「お願いって、言って」


「お、お願い……」


恥ずかしくて顔から火が出そう。
神崎さんは口を手で覆ってみせた。


なに?彼の思う「可愛い」にそれほど遠かったの?


「いいね、お願い。俺は結構好きかな、君のお願い。
 分かった、とりあえずは秘密にしよう」


「好き」というワードを聞いて赤くなる。
まあ何はともあれ、秘密にしてくれるというのだからここは一つ、
神崎さんのご機嫌を取っておこう。


「さ、この話は終わり。
 さっそく食事に行こうか。何が食べたい?」


「えっと、なんでもいいです」


「なんでもいい、か。じゃあハンバーグと
 オムライスだったらどっちがいい?」


私は普段、口癖のように「なんでもいい」と言うけれど、
その先を聞かれたことはなかった。


「なんでもいい」が相手にとって迷惑なことは分かっているけれど
やめられなくて、いつも困らせていた。


みんな好きに決めて、それで私は損をしたりすることが多かった。
だけど、この人は私に選択肢をくれた。
私に丸投げなわけじゃなく、
これとこれって私にも選びやすい聞き方をしてくれた。


同性でも異性でも、
こんなふうに接してくれる人は初めてだった。


「オムライスがいいです」


「オムライスね。それならここから5分くらいのところに
 おすすめのオムライス専門店があるんだ。そこに行こう」


「はい!」


人と話していて、初めて自分の意見が採用されたということが嬉しくて、
私の声はいつもより高めだったような気がする。


神崎さんと並んで歩くと、手と手が軽くぶつかってしまった。


慌てて手を引っ込めようとすると、
神崎さんの手が私の手を包んだ。


もうじきクリスマスがやってくる季節なので外の気温はとても寒いのに、
重なり合った手だけが熱を持っている。


お付き合いを始めたのだから手ぐらい繋ぐだろうと思うし、
そこで拒絶してしまうのもおかしいので、
そのまま委ねることにした。