前にもこんなことがあったな、と目をつむりながら思い出す。
学校がはじまったばかりの時。家にいられなくて、でも学校にも行けなくて、降りる時になっても、動けなかった。

『降りたくないなら、ずっと乗っていればいい』

あの言葉に、私がどれだけ救われたかわかるだろうか。
行かなくてもいいんだ、と思った。無理してどこかに行かなくてもいい、ここにいていいと、想太は言ってくれた。
そんなことを思い出しながら、少しずつ意識が遠くなっていった。

「……深月ちゃん」
肩を叩かれて、目を覚ました。
ハッと顔をあげると、目の前に想太の顔が。
「大丈夫?起きれる?」
「は、はい」
「じゃあ、行こうか。バスで送って行けたらいいけど、勝手に走ったら怒られちゃうからね」
座ったまま腕を差し出されてポカンとする。
「腕、つかまって」
「えっ」
「あ、抱っこがいい?それともおんぶ?」
「こ、こっちでお願いします」
私は慌てて首を振った。
人通りが少ないとはいえ、近所の人にそんな姿を見られたらしばらく外に出られない。
私はおずおずと想太の腕に自分の腕を絡ませて立ち上がる。
見た目より、ずっとがっしりした男の人らしい腕に余計に緊張してしまう。
「歩ける?」
「は……はい」
よろめきながら、切符を通して、バスを降りた。
熱より、緊張で倒れてしまいそう。
「あの、ここで大丈夫なので……」
バス停の前でそう言うと、「何言ってんの」と怒られてしまった。
「そんなふらふらで歩けないでしょ。俺が心配なんだよ」
「…………」
そんなことを言われたら、もう何も言えない。
恥ずかしいけれど、全身に力が入らないのでそんなことを言ってられる余裕はなく、私はほとんど倒れかかるようにぴったりと想太の体にくっついて歩いた。
すごい密着度。冷静ない頭だったら、まともに立っていることもできないかもしれない。