「今日はここまで。キリがついたところで、片付けをしてください」

中村先生の声に、みんなが「はーい」と返事をしてガタガタと絵具を片付け始める。

ーーできた。

ふうと息をついて、筆を置いた。

我ながら上出来だと思う。色を塗り終えたバス停の景色は、私の好きなあの場所そのものだった。

「いい絵ね。秋らしさがよく表現できてるわ」

みんなの絵を見て回っていた中村先生が横に立って、にっこりと微笑んで言った。

「ありがとうございます」

照れながら答えると、中村先生が私の絵をじっと見つめていた。

「ねえ、この人って、もしかして……」

「え?」

見つめる視線をあげて、中村先生はふふ、と微笑む。

「いえ、なんでもないわ。ちょっと雰囲気が知っている人に似てるなと思って。きっと気のせいね」

「そ、そうですか」

急に恥ずかしくなってうつむく。小さな横顔だけど、集中するうちに思わず細かく描いてしまったのだ。

お疲れ様、と中村先生は言って、前に戻っていった。

『この人って、もしかして……』

一瞬、知り合いだろうか、と思ったけれど。


ーーまさか、そんな偶然ないよね。

そう思い直して、絵具を片付けはじめた。